2015年12月17日木曜日

「願い事」の言葉は「wish」

「砂の妖精」は、五人の子どもたちが偶然妖精サミアドに出会い、「願い事」を叶えてもらえるという幸運を手にしながら、思うような「願い事」ができずにいろいろな騒ぎが持ち上がる物語です。

思うような「願い事」ができないというのは、「願い事」をしたつもりがないのに、勝手に「願い事」として叶えられてしまう、という行き違いによるものもあるのですが、それはサミアドが、子どもたちが「願い事」をしたかどうかの判断を、「wish」という言葉を使ったどうかで決めるからなのです。

これが日本語訳する上で難しくなります。日本語で「願い事」をする場合、いろいろな表現があるからです。

「〜したい」「〜して欲しい」「〜だったら良い(のに)なぁ」「〜してください」「〜をお願いします」などなど、日本語には「願い事」だと言える表現がたくさんあるのです。逆に言えば、一つの表現だけでは言い表し切れないとも言えます。

英語なら「wish」という一つの言葉を言うかどうか、思わず口にしてしまうかどうかという面白さがあるのですが、上記の日本語表現を全部「願い事」をする言葉だとしてしまったら、どうなるでしょう?

きっと、「願い事」の〝言葉を口にしたかどうか〟が、〝願ったかどうか〟という曖昧で幅の広いものになってしまい、どこからどこまでが「願い事」になるのか、物語の中の子どもたちや読者がわかりづらくなってしまうでしょう。

そこで今回の新訳では、多少の無理を承知で、この「wish」を「欲しい」としています。「欲しい」と言ったら「願い事」です。それにより子どもたちが願ってもいないのに「願い事」をしてしまった時の、「しまった、言っちゃった!」という感じが読者に伝わりやすくなっていると思います。

これまでの邦訳書にはない、今回のこだわりの一つです。どうぞお楽しみに。現在校正とルビ付け作業中です。発売まで今少しお待ち下さい。