2017年2月23日木曜日

「リンゴの丘のベッツィー」の文体

英語の翻訳を重ねていると、作家によって文体が異なることに気づかされます。
  
簡潔な短い文で畳み掛けるように書く人もいれば、くり返しによってリズミカルな雰囲気を出す人もいれば、修飾表現を次々に書き加えて、とにかく一文が長い人もいます。
  
そんな中で、現在翻訳作業中の「リンゴの丘のベッツィー」(ドロシー・キャンフィールド・フィッシャー作)の文体的な特徴はと言えば、会話になっても改行しない、ということでしょう。
  
例えばこんな感じです。

 エリザベス・アンは、アンおばさんの言葉に背中を押されたかのように、さっと流しまで飛んでゆきました。するとあっという間に、皿も、カップも、スプーンもきれいになり、気づけばもう、格子柄のタオルで食器を拭いているところでした。「スプーンはサイドテーブルの引き出しでほかの銀食器と一緒にして、お皿とカップはガラス戸のついた陶器用の食器棚の中にしまってね」さらにアンおばさんは、アイロンをナプキンにぎゅうぎゅうと押しつけながら、ちらりとも顔を上げずに言いました。「部屋を出る時に、リンゴを忘れずに持っていってね。〝ノーザン・スパイ〟は、今がちょうど食べごろよ。十月に木からもいだ時には、オークの厚板だってぶち抜けるほど硬かったんけどね」
  
一般的には会話部分を改行して、こんな感じになるところでしょう。
  
 エリザベス・アンは、アンおばさんの言葉に背中を押されたかのように、さっと流しまで飛んでゆきました。するとあっという間に、皿も、カップも、スプーンもきれいになり、気づけばもう、格子柄のタオルで食器を拭いているところでした。
「スプーンはサイドテーブルの引き出しでほかの銀食器と一緒にして、お皿とカップはガラス戸のついた陶器用の食器棚の中にしまってね」
 さらにアンおばさんは、アイロンをナプキンにぎゅうぎゅうと押しつけながら、ちらりとも顔を上げずに言いました。
「部屋を出る時に、リンゴを忘れずに持っていってね。〝ノーザン・スパイ〟は、今がちょうど食べごろよ。十月に木からもいだ時には、オークの厚板だってぶち抜けるほど硬かったんけどね」


もちろん全部が全部こうなのではなく、普通に会話部分で改行する場合もあるのですが、文中に埋め込む度合いがとても高いのです。

特に小さいお子さん向けに訳された本の場合は、原著の段落構成は無視して、読みやすいように改行されることが多いようですが、《望林堂完訳文庫》では、基本的に原著に忠実に翻訳することを目指していますので、こうした文体もそのまま活かしています。

慣れないと多少読みにくいかもしれませんが、それも作品(あるいは作者)の特徴であると思っていただけると嬉しいです。