2017年8月13日日曜日

パトラッシュの犬種は何でしょう?

原文に描かれたパトラッシュは、アニメーション(日本アニメーションによる1975年のTVシリーズ)のイメージとはかなり異なります。

フランダースの犬——それは、肌は黄色で、頭と手足は大きく、耳はオオカミのようにぴんと立った犬種です。重労働を何世代も続けた結果、品種として筋肉が発達し、脚が曲がって足先が大きくなっています。パトラッシュは、ファンダース地方で何世紀にも渡って親から子へとずっとつらく苦しい労働を担っていた、こうした家系の出でした——つまり奴隷の中の奴隷、人間のための犬、梶棒と引き具につながれた獣、荷車ですり傷を負いながら腱をぴんと張って生き、通りの固い石畳の上で心臓発作で死ぬ運命の生き物、そんな種族の一員だったのです。
(本文より 毛利孝夫 訳)
    
  「犬種」、「家系」、「種族」と言う言葉が使われてはいますが、当時ベルギーでは、労役犬の犬種がまだ決まっていませんでした。それに、ジェハンじいさんのように貧しかったり、金物商人のように自分勝手だったりする人たちが、行き当たりばったりに犬を手に入れていることを考えると、決まった犬を選んで手にすることは難しいでしょう。パトラッシュは代々荷車引きに従事させられてきた〝雑種〟の可能性が高いと言えます。

ちなみに1985年にベルギーのホーボーケンという街(ネロたちが住んでいた村のモデルと言われています)に建てられたネロとパトラッシュの像は、ブービエ・デ・フランダースという犬種の姿をしています。

  
ブービエ・デ・フランダース
  
この犬種は、ベルギーとフランスの国境にあるフランドル地方で、家畜を追いかける牧畜犬や警備犬として活躍していた犬です。
   
しかし文中の描写と違い毛むくじゃらなので、〝黄色〟とか〝黄褐色〟という原文の表現とは異なります。そのため、ベルギー産のベルジアン・シェパード・ドッグ・マリノアという犬種ではないかという説もあるようです。
   
ベルジアン・シェパード・ドッグ・マリノア

ただ、いずれにしても、写真のようなはっきりした特徴を持った犬種というよりは、雑種であったと考えるのが自然なようですね。

  
ちなみに、日本のアニメーションに出てくるパトラッシュは、セントバーナードや和犬を参考にして作られたオリジナルとのことです。これも、ある意味〝雑種〟ですね。
   

ということで、今回採用した挿絵のパトラッシュは、たとえその姿に違和感が感じられたとしても、実は一般的なブービエ・デ・フランダースやアニメーション版パトラッシュに比べ、原著の描写に近いものだと言えそうです。

  

  

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・  

■ Amazon Kindleストア ➡ 既刊書一覧
■ 楽天kobo電子書籍ストア ➡ 既刊書一覧
■ BOOK☆WALKER総合電子書籍ストア ➡ 既刊書一覧